
東京駅からほど近い、中央通りと鍛冶橋通りが交差する京橋交差点。ここに2025年7月、木造ハイブリッド構造のオフィスビル「第一生命京橋キノテラス」が誕生しました。「Well-being×Sustainability」をコンセプトに最新の技術を駆使して建てられたこの建物は、地上12階、地下2階で、木造ハイブリッド構造のオフィスビルとしては日本一(竣工時)の高さを誇ります。不動産企画と開発の担当者の二人に、「キノテラス」へのこだわりや、未来への想いを聞きました。
お客さまの50年、100年先を守る手法としての不動産投資
「Well-being×Sustainability」。「キノテラス」に掲げたこのコンセプトの根底には、第一生命がこれまで大切にしてきたお客さまへの想いがあります。
「生命保険事業とは、お客さまの50年、100年先の将来のお約束をする仕事。その手法として私たち不動産部は、お預かりした保険料を不動産投資の形で運用してきましたが、その不動産を単なる建物に終わらせない努力や挑戦を続けてきました。1921年に竣工した2代目本社ビルでは低層階に商業施設、高層階にレストランをテナントとして迎えるという当時としては先進的な取り組みで、“賑わい創出”と“人々の交流”というオフィスビルの新しい価値を生み出しました。お客さまの未来をひろげるため、本業の保険以外でも人々の生活を支える企業であろうとする考え方がそこにあったのだと思います」と、不動産部不動産企画課の坪井一朗は語ります。

木造建て替えプロジェクトを実現に導いた「サステナビリティ・プレミアム」
今回のプロジェクトを大きく前進させたのは、投資基準にサステナビリティの要素を組み込んだことでした。「お客さまの人生を長く支えるためには、“地球環境を守る”ことも重要です。社長の隅野も常々、『社会が持続可能でなければ、私たちのサービス自体が“絵に描いた餅”。サステナビリティは私たちの事業の大前提だ』と話しています。私たち不動産部門ではその挑戦として2021年に、不動産の評価基準に環境や社会への配慮という項目を組み込むべく業界に先駆けて“サステナビリティ・プレミアム”という新しい考え方を導入しました」と坪井は語ります。
社会全体でサステナビリティを重視する動きが進むなか、不動産業界でも環境性、快適性、健康性といった性能を客観的に評価・認証する制度が国内外のさまざまな機関で開発・運用されています。「サステナビリティを示す外部専門機関の第三者認証などを取得している物件について、研究機関とともに国内外の事例を広く調査したところ、こうした物件は、他の物件に比べ、収益性や価格評価などが相対的に優位であることが明らかになりました。これらの結果を踏まえて私たちは、投資・開発の判断時用いる投資基準(ハードル・レート)を組み入れることを基準化したのです。その結果、サステナビリティを重視した物件に投資しやすくなったことで投資が促進され、また業界全体にも先行事例としてのポジティブなインパクトを生むことができました」
ちょうどその頃、この「キノテラス」の地に建っていた前身の物件が築約60年を経過し、建て替えの検討に入っていました。そこで、サステナビリティ・プレミアムの考え方を採用した第1号事例として、このプロジェクトが立ち上がったのです。



環境性と機能性の両立を目指した「木造ハイブリッド構造」という挑戦
この手法として選んだのは、「木造と鉄骨造のハイブリッド構造」。不動産部不動産開発課で、本物件を担当した新井美央が、その経緯を教えてくれました。
「環境に対する持続可能性、建物の機能性、そして『Well-being』向上。これらの価値を最大限に実現することがミッションでした。まず環境面では、オフィスビルとして国内最大級の木材使用量に相当する約1,100㎥の国産材を使用することで、約740トンのCO2固定化を実現しました。木材は、森林が吸収した炭素を貯蔵する効果があり、森林を“伐って、使って、植えて、育てる”という循環利用の確立がカーボンニュートラルへの貢献等に繋がっていきます(※1)。『キノテラス』で木材を積極的に活用することは、CO2固定化と森林資源の循環利用の両面に貢献しています。
こうした木造ハイブリッド構造の採用や木材利用によるCO2の固定化、使用した鉄骨材の約70%にリサイクル資源を有効活用した電炉材を採用したことによって、 同規模の鉄骨建築と比べて、建設時において約37.5%のCO2削減効果がありました。竣工後の運用におけるCO2削減として、省エネ施策などにはこれまでも取り組んできましたが、今回は、建設時においても取り組みを拡大できたということが、一つの大きな成果だと考えています。
一方で、木を多く使いながらも、賃貸オフィスとしての機能性は損なわないように意識しました。例えば、鉄骨材と木材を適材適所に使用することで、基準階での40m×17mの木質無柱空間を実現し、オフィスレイアウトの自由度を確保しました。環境性とオフィスに求められる機能性を両立させられたことが、不動産投資の観点で重要だと思っています」


木の温もりと開放的な空間が、「Well-being」という付加価値に
そして木を使うことは、施設利用者の「Well-being」の向上にも繋がっています。「木質空間で過ごすことで集中力が上がり、アイデアが湧きやすくなる、木の香りにより精神的に安らぐといった効果(*1)が実際に確認されています。この効果を活かすため、構造部分だけでなく、内装デザインにも積極的に木材を活用しています」
また木の心地よさ以外にも、「Well-being」向上の工夫がさまざまに施されています。「窓廻りは開放性が高く、その先には当社が一部保有する『東京スクエアガーデン』の豊かな緑が目に飛び込み、都心にいながらにして緑を感じられます。また各階に設けたテラススペースはワークタイムのリフレッシュやコミュニケーションの場として活用できるよう設計しています」
入居企業へ、来館者へ、まちの人々へ。新しい時代の価値を届ける
「Well-being×Sustainability」というコンセプトは、テナント誘致のうえでも鍵になりました。「テナントの中には、オフィスとしての機能性に加えて、従業員の方々の『Well-being』向上に資するオフィスであることと、企業として『キノテラス』の環境性に共感したことで、入居を決めていただいた例もあります。特に、サステナビリティをコンセプトにした不動産は高く注目されていると感じます」。「キノテラス」を一つのきっかけとして、社会全体でサステナビリティの意識が高まれば、と担当者は期待ものぞかせます。
「エントランスや天井にもふんだんに木を使ったこの建物は、来館者やまちゆく人々にとっても癒やしや憩いになるでしょう。『キノテラス』の存在が、まちを温かく豊かなものにする一歩になればと思います」


持続可能な未来のために、この先も挑戦し続ける
この「キノテラス」プロジェクトはこの先、どのような未来につながっていくのでしょうか。坪井に今後のビジョンを聞きました。
「木材活用は不動産投資の観点において、重要な選択肢の一つと考えていますが、私たちはアプローチを変えながら、常に環境と社会の持続可能性を目指してさまざまな挑戦を行っています。例えば環境面での取り組みの一例として、私たちは新しい建物を建てるばかりでなく、建物の”延命”や”長寿化”も目指しており、1938年に建てられた日比谷本社ビルは、2度の大規模なリノベーションを行いながら今も大切に使い続けています。また社会とのつながりについては、『キノテラス』がオフィスで働く人々の『Well-being』向上だけでなく、ビルを訪れる人や街ゆく人々の心地よさも目指した『開かれたビル』であるように、建物を軸としたまちづくりにも力を入れています。2022年にオープンした『SETAGAYA Qs-GARDEN』では多世代の住民(*2)が健康やスポーツのイベントを通じて、交流しながら暮らし続けられるまちづくりを行っています。また2023年に竣工した『D-LIFEPLACE札幌』も、地下鉄さっぽろ駅の地下歩道『チ・カ・ホ』と直結したオフィスビルとして、地下(チ・カ・ホ)地上(札幌駅前通)をつなぐオープンスペースでマルシェやワークショップなどさまざまなイベントを開催し、地域の人々がつながる場を創出しています。今後もアプローチ方法を制限することなく、さまざまな可能性を探りながら、環境、働く人、街にとって心地よい社会を目指し、挑戦していきたいと思います」
(*1)林野庁、建築物への木材利用に係る評価ガイダンスより
(*2)当社保有の9ha(ヘクタール)の敷地に、スポーツ施設、ファミリー向け分譲マンション、クリニックモール、学生向け住宅、サービス付き高齢者向け住宅、地域コミュニティ施設などを様々なパートナーとともに配置。
※トップ画像:「キノテラス」の屋上にて。ウッドデッキと四季の移ろいを感じられる樹木で設計された屋上庭園になっている。




