
保険に加入するお客さまからお預かりした資金を、安全に、長期的に運用する——。生命保険会社は、その運用を通じて社会に大きな影響を与える存在でもあります。第一生命は2025年、愛知県が発行する債券への投資を実行しました。水害対策と地震対策に資金使途を限定するという、日本初の取り組みです。プロジェクトを主導した牛田雅人と、現在債券投資ユニットで社債グループ長を務める安田三四郎が、その舞台裏と投資が切りひらく未来について語ります。
商品設計から愛知県に提案。日本初の取り組みはなぜ生まれた?
―生命保険会社が「機関投資家」として果たす役割とはどのようなものか、あらためて教えてください。
牛田:私たち生命保険会社は、保険に加入するお客さまからお預かりしたお金を、債券や株式、ファンド、不動産など、さまざまな方法で安定的に運用し、収益を保険金としてお客さまに還元しています。近年は、投資を通じて社会に貢献することも重視し、サステナビリティの観点も織り込んで投資先を検討しています。
安田:特にわれわれが力を入れているテーマがいくつかあります。自然環境や生物多様性の保護といった「ネイチャー」分野、少子高齢化対策やヘルスケア、地方創生といった「ソーシャル」分野、そして「気候変動対策」です。そのなかでも、避けられない災害が起きたあとの被害をどう減らすかというレジリエンス強化の分野に注力しており、今回お話しする愛知県債もここに該当します。

—2025年の愛知県債への投資プロジェクトは、どういったものですか。
牛田:愛知県が発行する、県内の水害・地震対策に資金使途を限定した債券に、第一生命が総額50億円を投資したものです。水害・地震対策に使途を限定した債券の発行は日本初であり、われわれはその商品設計から、愛知県に提案を行いました。
—最初はどのようなきっかけからはじまったのでしょうか。
牛田:以前、債券投資を担うチームで社会的に意義のある投資アイデアを話し合い、SDGsの17の目標に沿って網羅的に整理してみたことがありました。
すると、たとえば「目標13:気候変動に具体的な対策を」には、資金使途を環境事業に限定する「グリーンボンド」という債券がある一方で、まだ「空白地帯」のテーマもありました。そのひとつが水害対策です。ここに使途を絞った債券が実現できれば、社会的にポジティブなインパクトを与えられるのではないか。それが議論の出発点でした。

他の自治体も追随。新たな市場を創り出すきっかけに
—実現までの間に、困難はありましたか?
牛田:最初はうまくいきませんでした。国内の債券市場は、証券会社を介して発行体とやり取りするのが一般的です。私たちが投資したいと考えても、発行体が債券を出してくれなければ実現しません。当初は、証券会社を通じてさまざまな企業や自治体へヒアリングを行ったものの、合致するニーズを持った発行体がみつからず、思うように先に進めない時期が続きました。
転機になったのは、愛知県のIRの場で先方と直接お話しできたことです。かねてからのわれわれの想いをお伝えしたところ、愛知県も多くの川を抱え、近年ゲリラ豪雨や線状降水帯による大雨被害が増えるなか、水害対策を重要なテーマととらえていることがわかりました。

—愛知県とのやり取りのなかで、印象に残っていることはありますか?
牛田:水害対策は私たちも温めていたテーマでしたが、議論を重ねるうち、愛知県側から「地震対策も重要であるため、資金使途のテーマに加えるのはいかがでしょう?」とご提案いただきました。政府の地震調査委員会による調査でも、南海トラフ地震の30年以内の発生確率が最大60〜90%程度以上とされていますが、この地震が起これば愛知県は地理的に影響の大きな地域です。
これは、東京に拠点を置くわれわれのような投資家では気付きにくい発想でした。地域を最もよく知る方々と双方向に議論を交わしたからこそ、水害・地震対策の2本立てという形が生まれたのです。
―この取り組みの社会的意義を、どのようにとらえていますか。
牛田:この愛知県債が発行されたあと、他の自治体からも災害対策の地方債が発行されました。われわれの取り組みがきっかけのひとつになったのではないかと思います。多くの資金が必要な分野に目を向けさせ、ひとつの市場そのものを創り出すことに寄与できた好事例だととらえています。

日本中、そして世界でも。投資の力で社会課題にアプローチ
―今後、投資を通じてどんな未来を実現していきたいですか。
安田:債券投資ユニットとしては、海外投資も行っています。足元では、オランダのロッテルダム港湾公社が発行した、CCS(Carbon Capture & Storage/二酸化炭素の回収・貯留)と呼ばれる脱炭素インフラに資金を充てる債券に投資しました。資金使途をCCSに限定した世界初の債券で、私たちはその最大の投資家となりました。このように、国内に限らず、海外市場でも債券の発行を後押しして、投資の力で社会課題の解決に寄与していきたいです。
牛田:私は現在、第一ライフグループ100%出資の資産運用会社として2022年に設立されたバーテックス・インベストメント・ソリューションズに籍を移しています。同じ機関投資家として資金を運用する点は変わりませんが、自身の投資対象は国内債券から海外の債券・株式まで大きく広がりました。
以前はわれわれが培ってきた運用力を、第一生命に資産を預けてくださった保険のお客さまのためにしか使えませんでした。ですがバーテックスの運用商品は、NISAや通常の証券口座などを通じて、世の中の「資産を運用したい」という方々が広く手にできます。これからもグループ全体で、培ってきた運用力を国内外のより多くの方々に届け、一人ひとりの人生、そして社会の未来の可能性を広げていきたいです。








